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新刊最速レビュー

文学賞ノミネートあるかもと思わせる作品

ユウハル

書店員

2024年11月25日

2024年11月25日

30年という年月を遡って語られることで、少しずつ変化している珠たちのことを見つめることができた。 珠は私だ!と思う人も多いのではないかと思う。すべてがいっしょというわけではないが誰もが感じたそれぞれの時代の空気を思い出した。 珠目線で語られる5年刻みの物語。「永遠」という意味を考えながら読み、明確な答えがすぐに出ないことが現実にもありそうと思いながら読むことを楽しんだ。 星母島の名前が出てきた時に「繋がってるんだ」と喜び、「彼女が天使でなくなる日」を読み返したくなった。 時間が経てば経つほどじわじわと沁みてくるこの作品は、もしかしたら文学賞ノミネートもあるんじゃない?と私は思ってます。
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ずっと見守ってたい場所

ユウハル

書店員

2024年11月25日

2024年11月25日

読んでいる人たちもココ・アパートメントの一員になってるようなそんなやさしい小説。 いろんな世代が集まっていてそれぞれの生活、考え方を尊重しながら住まいを作り上げていく。信頼がなければできないことだ。気持ちよく住んでいける、ココ・アパートメントを出てもいつでも訪ねていけるこんな信頼できる場所がとてもうらやましい! 住人一人一人が抱えていることは、どれももし自分だったらと考えてしまうほど、ありえないことではなく身近なことが多かった。だからこそ登場人物たちに寄り添って小説世界に浸ることができた。まだまだこれからもココ・アパートメントを見守っていきたくなった。
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なぜ小説を読むのか

ユウハル

書店員

2024年11月25日

2024年11月25日

私はなぜ小説を読むのか?と思っていたところに届いた作品。 野崎まどが全て書いてくれた。 なんだかとても愛おしい。 私も集司と同じくNDCの9ばかり読んでいた。しかもミステリーばかり。 子どもの頃は小説を書きたいという気持ちもあった。メモでもいいから書いていればよかった。何もかも枯渇して創作できなくなった今なぜ小説を読むのか。読むだけじゃだめなのか。何度も自分に問いかけた。その答えはこの作品にあった。
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どうなってしまうのか予想できない展開

ユウハル

書店員

2024年11月25日

2024年11月25日

どうなってしまうんだろうと不安になりながら最後まで読んで、それぞれの人生の選択肢が増えた結果に安堵しました。みんな問題を抱えているし、スッキリ解決とはいかないところは現実的でそこがよかったと思う。 子どもたち目線の4話は読んでいて涙が出てきた。彼らの未来への選択肢がもっと増えるといいなと心から願う。 タイトルからは思い浮かばないほど結構人間関係ドロドロしてるのに読後感は爽快だったのは最後は三好の話だったことが大きいと思う。一番三好の感覚が理解しやすかった。他の住人たちの感覚は本当に何十年前?というぐらい古く、共感するどころか呆れてしまう。意外アップデートされてない人はどこも多いのかも。現実的なところが大袈裟に凝縮されてて興味深かった。 絶対に嫌!と思ったのは玄と婦人会の人たち。悟志は最初は無理!!と思ったけど類のおかげか、まあ許せるな…までに印象が変わった。
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この世界で、隣同士ただ共にあることの大切さを。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月24日

2024年11月24日

全て読み終わった後で振り返るプロローグの尊さよ。 ここにあるあふれるほどの温かさと、ひとさじの切なさが教えてくれる。 この世界で、隣同士ただ共にあることの大切さを。 誰もが心の中に時計を持っている。時にものすごい勢いで進み続けたり、逆戻りしたり、あるいは針を見失うこともあるかもしれない。 例えばもし、自分の中の時計が止まってしまったら途方に暮れるしかないだろう。 分解してみる?新しいのを買ってみる? でも、どんな時計であってもその存在を肯定してくれる誰かがそばにいたら、その針はいつかまたゆっくりとでも動き始めるだろう。 止まらないで動き出す針を信じて待つこと。ひとりでは耐えきれないその時間を共有してくれる場所、それがココ・アパートメントだ。 近所づきあいが煩わしいと感じるのはなぜだろう。プライベートに踏み込まれる不快感、誰かのために自分の何かを差し出す理不尽さ、自治や管理のわずらわしさ。 どれも胸に手を当てれば思い浮かぶ。その面倒くささを嫌って隣近所との付き合いを絶つ、そこにあるのは気楽さ。 けれど、その面倒くささやわずらわしさが、誰かの温かい手となって疲れ切って壊れそうな心をほぐしてくれることもある。 家庭の事情で一人暮らしを余儀なくされた高校生が、妻を喪ったシングルファザーが、発達障害の息子たちを持つ両親が、いろんな形で他人の手を借りて時計の針を進めていく。 誰かに助けを求めること、誰かに頼ること、誰かに弱みを見せること。大人になると難しいそういうあれこれを、柔らかく包み込んで「あたりまえ」として受け入れてくれる場所。 彼らにココ・アパートメントがあってよかった、と心から思う。 もし、自分の時計が止まりそうになったら、私にも見つけられるだろうか。 誰かの何者になるために、誰かに何者かになってもらえるためにずっといられる場所が。
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想いのバトンをつないでいくって、なんて素敵なことなんだろう。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月24日

2024年11月24日

ジュエリーデザイナーとして働いていた店の閉店、そこから中学時代までさかのぼっていく物語。 中学の卒業制作で同じ班になった4人。選んだモチーフは雫(ティアドロップ)。 雨が川になり海に流れ込み、再び空へと戻っていく。永遠に続く回転。 それぞれの人生や、それぞれの関係、そして見えなかったものが5年ごとに少しずつくっきりと形になっていく。 30年。中学生がオトナになるまでの時間。 ままならない思いを抱えて生きる4人の、重なり合う想いにじわじわと心が潤っていく。 想いのバトンをつないでいくって、なんて素敵なことなんだろう。 寺地はるなの優しさに、またまた惚れてしまう。
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心の奥深くに隠してなかったことにしていた傷を、チクチクと刺してくる町田そのこよ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月24日

2024年11月24日

なんだろうな、この痛み。 心の奥深くに隠してなかったことにしていた傷を、チクチクと刺してくる町田そのこよ。 生まれ育った田舎から、早く飛び出したくて、でも飛び出せなくて。 このままずっとここしか知ら知らずに生きていくのだろうか。 この狭い世界が自分のすべてなんだと、あきらめてしまった多くの人の、その心に伏せていた何かを解き放つ一冊。 廃校になる小さな小学校の、最後の文化祭。その同じ一日を同じ場所で過ごした人たちの、小さくて大きな心の変化。 変わりたくて変われなくて、そんな自分に嫌気がさして。でも、それでも人は新しい一歩を踏み出せるし、自分を振り返ることができる。 5つの話の5つの痛みと後悔を読み終わった後、夕暮れ時のような光に包まれた気がした。
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同じ時を過ごした「仲間たち」は、この日を超えてどう変化していくのだろうか

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月24日

2024年11月24日

5月に『死んだ山田と教室』で衝撃的デビューを果たした金子玲介の「死んだシリーズ」第三弾。 スピーカーへの憑依、大人数のデスゲーム、ときて次はなんじゃ!と誰もがわくわくして待ち望んだ上演劇!! うーむ、すごいな、よく次々とこんな設定思いつくよな、と。 8年前の大学の演劇研究会の合宿で中心人物木村が突然自殺した。卒業公演のための合宿。その真相に迫るため、あの時のメンバーが同じ場所に集まる。 メンバーを召喚したのは自殺した木村の妹。彼女の求めに沿って彼らは「あの日」の出来事を演じ始める。 再現されるそれぞれの動き、臨場感あふれる会話。時折湧き出る情動。 あの日、本当は何があったのか。それぞれが隠し持つ過去。明らかにされていく秘密たち。そこにこめられた複雑な思い。 8年間という時間がそれぞれの「今」を形作っているとして、抱えていた秘密は一ミリも変化していない。 美しく才能も人望もあった木村の突然の「死」。誰もが憧れ、そして憎んだ木村への想いの吐露。 誰が木村を殺したのか。その理由は。「屈託」と「鬱屈」。持てる者と持たざる者。 同じ時を過ごした「仲間たち」は、この日を超えてどう変化していくのだろうか。 「そうきたか」というラストの展開。一年間に3冊も出せる金子玲介の胆力。3冊まとめて読み直すとその手触りの違いに驚く。 来年はどんな驚きの設定で楽しませてくれるのだろうか。
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これよこれ!!この読後感の良さが青山小説の醍醐味よ!!!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月17日

2024年11月17日

十二歳年上の恋人を持つ僕が、精一杯背伸びして彼女と釣り合おうとしてついていた嘘 二十歳になり夢を叶えるためアメリカへ旅立つ娘を持つ私の、孤独と無力感 趣味の絵画購入が過ぎて三か月前に妻と離婚した私の手元に残った妻からの贈り物のヴィンテージ時計 文学賞の選考結果を知らせる電話を待つ作家の私が活動的で社交的な妻の一言で取り戻す自信 手タレと銀座のクラブのママ兼任で十二歳年下の恋人を持つ理世 理世ママの店の元ホステス紗奈の失恋と勘違い 人魚が逃げたという言葉と共に歩行者天国でのロケでトレンド入りした王子 銀座に歩行者天国で「僕の人魚がいなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」という言葉ともにトレンド入りした「王子」。 とある日の、銀座で王子と遭遇した6人の物語たち。ちょっぴり切ない嘘や迷いや後悔が、王子と出会うことで変わり始める。 その瞬間の優しい鮮やかさ。誰もが自分の物語の主人公。うまくいかないこともあるけど、それでも人生ってどんどん変わっていくものだ。いや、変えていくものなのだ。アンデルセンが描いた人魚の物語を軸に展開する青山美智子ワールド。 これよこれ!!この読後感の良さが青山小説の醍醐味よ!!!
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モキュメンタリーとは、mock(まがいもの)+documentary(実録)。ドキュメンタリーのように見せたフィクション。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月13日

2024年11月13日

モキュメンタリーとは、mock(まがいもの)+documentary(実録)。ドキュメンタリーのように見せたフィクション。 山梨の旧家を舞台にしたモキュメンタリーのロケ。プロデューサーの再婚相手の実家での撮影中、姿を消したその息子昴太。 12歳になると男子はみな命を落とす、という言い伝えだの、いわくありげな蔵だの、なにもかもが不気味な家。 プロデューサー夫婦と旧知だったディレクターの佑季と、相棒のAD阿南が追う呪いと謎。 ひとつひとつ謎を集め、一歩一歩旧家の呪いを解いていく。昴太が12歳を迎える前に。 緊迫した状況と呪いのおぞましさに読む手が止まらない。そしてラスト。 うわぁあああああああ!こわいわっ!!と叫んでしまった。

総合病院の外科医コンビ、いや、バディの第二弾。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月13日

2024年11月13日

総合病院の外科医コンビ、いや、バディの第二弾。 「医者」は神じゃない。でも患者として病院の、診察室の、医者の目の前の丸い椅子に座ったら、もう目の前のヒトは神に近い存在になってしまう。 でも、患者の側からしても、医者本人の側からしても、決して「神」ではないのだ。「神」であってはならないのだ。 多くの人を死に至らしめた殺人犯が瀕死の状態で運ばれてきたら、その命を救うべきか。 学生時代に因縁のあった元顧問が末期がん患者として自分を頼って来たら冷静に手術できるのか。 そして、ドクター本人が患者となって手術を受けたら… 毎日当たり前に診察と手術を繰り返す日々のなかで、見失っていたあれこれに直面する主人公剣崎の、心の変化に寄り添いながら読了。
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辛いなぁ。これは頭ではなく心でもなく、本能で読む小説なのかもしれない。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月08日

2024年11月08日

辛いなぁ。これは頭ではなく心でもなく、本能で読む小説なのかもしれない。 5年付き合った恋人からプロポーズされた翌日にもたらされた信じられない連絡。 電車内での女子高生盗撮。 なんで?そりゃ、なんで?しか頭に浮かばないでしょう。しかもなぜこのタイミングで? 自分だったら、なんて考えただけで目の前が真っ暗になる。 友だちに、親に、会社に、知られたくない、恋人の罪。 示談になったのなら前科はつかない。だったら、「魔が差した」「つい出来心で」となかったことにして許すのか。 そもそも、自分が許すべき立場なのか。 主人公がたどる逡巡に共感したり反感を持ったり。自分なら…いや、自分ならなんて考えたくもない。 大好きな作家が大好きな小説の中で登場人物に言わせていた言葉「痴漢は死ね」を強く支持しているので特に。 主人公の新夏と恋人の啓久の、二人で決めた道。彼らを取り巻く人たちの言動にいちいち腹が立つけれど、結局はこの道しかなかったのだろう、とも思う。 きっとこの先の人生で何度も思い浮かべてしまう言葉を、本当に好きだった人に言わない、言わせないために。 タイトルからは想像もできない苦い小説。
新刊最速レビュー

現実逃避とか負け組とかいろんな言葉で揶揄される世代のリアル

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月08日

2024年11月08日

唯一無二のキャラ成瀬を生み出した宮島未奈が今回描くのは、なんと四十歳独身男性、フリーのライターだと! しかも舞台は婚活市場という。次もきっと高校生が主役の秋晴れ青春ものなんだろうな、なんて勝手に思っていたので恐る恐るページをめくるが、 これが安定の面白さだった。 四十歳というと、すでに経済が右に向かって下がり続けていたころに青春時代を送った世代か。 就職で失敗したらもう結婚も諦めてしまうような不安定な働き方しかないような。 そんな諦め世代真っただ中の主人公。 大学入学時からずっと同じマンションに住んでいる、という時点でもう切ない。そんな彼、猪名川健人が大家の紹介で覗き込んだ婚活の世界。 始めはHP作成のために顔を出した婚活パーティー。そこで司会進行をしていたのは同じ年の女性奈緒子。 彼女の働く姿や仕事への姿勢を知り、結婚というキラキラとギラギラとドヨドヨが入り混じった世界を覗き込むことで広がっていく健人の視野。 後半現れる成瀬っぽいキャラに心躍らせながら、とても楽しくあっという間に読了。 この、あっという間の楽しい時間に紛れてしまうけれど、実はとてもリアルでシビアに現代のアラフォー世代の現実が描かれていた。 現実逃避とか負け組とかいろんな言葉で揶揄される世代。いい大学に行っていい会社に入って、結婚して家を建てて車を買って子供は二人。 そんなかつては当たり前にあった生活が夢物語にしか見えない世代の、それでも毎日疲れた体を引きずって生きていく世代の、小さくてもささやかでも幸せだと思える明日の心地よさを見せてくれる。
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これは、自分の知らない自分の物語なのかもしれない。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月07日

2024年11月07日

自分自身を切り刻み血まみれのまますさまじく美しい笑顔で前へ前へと進んでいくような女性を描く桜木紫乃の作品に少しなじめなさを感じていた。 そんなに自分を傷つけなくても、と、そんなに無理に頑張らなくても、と。 でも、そういう女性を描いてきた桜木紫乃だからこそ描けた優しく温かい物語なのだろう、これは。 深紅のイメージだった桜木作品が、こんなに透明で優しくて温かい青に染まるなんて。 5つの物語。5つの人生の岐路。夫との、姑との、息子との、編集者との、そして母との関係の、新しい一歩を踏み出すための分かれ道。 それぞれの物語が深く深く心にしみてくる。自分の物語じゃないのに、自分がそこにいるような気がする。 物語の中に、一冊ずつ絵本が登場する。読んだことのないその絵本が自分の本棚のすみっこに並んでいる気がする。 心が柔らかくほぐされていく。 優しくて温かくて透明ななにかが心にそっと触れていく。 あぁ、こういう物語が欲しかったんだ、と気付く。これは、自分の知らない自分の物語なのかもしれない。
新刊最速レビュー

線の一本一本に、色の濃淡に、位置に、空間に、見えないけれどそこにあったものを描く困難さと喜び。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月07日

2024年11月07日

京都の芸術大学を休学中の真が、従兄の誘いで江戸時代のとある襖絵の装丁復元模写制作に携わる。 復元チームは修士二年の土師と留学生で修士一年の麗華。三人で取り組む花鳥図は12面のうち9面だけ。 知識と予想、根拠と想像、自分のすべてをかけて模写し欠けた3面を描き出す。 今まで、芸術作品の模写について、ただの複写だと思っていた。製作者の思いや、復元模写する者の想いがこんなに大きく響くものだとは思いもしなかった。 線の一本一本に、色の濃淡に、位置に、空間に、見えないけれどそこにあったものを描く困難さと喜び。 三人の若者の屈託も野心も、そして情熱も込めて完成させていく道のりと共に歩き続ける。 日本画は道具にもお金がかかる、そして準備に時間もかかる。その手間暇をかけて描くのは己のオリジナルではなく復元の模写。そこに描き手は何を込め何を目指していくのか。 自問自答を繰り返し、作者の想いを汲み補い生み出す。なんと壮大な世界なのか。 芸術小説であり青春小説であり家族小説でもあるこの一冊が爽やかで熱く清らかな風を連れてくる。
新刊最速レビュー

本屋に限らず、働くことの意味、意義,姿勢、その大切なことがここにある。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年11月01日

2024年11月01日

書店業界を舞台にしたノンフィクションノベル。 『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』を改題改稿したもの。 70年間町の本屋として尼崎で愛され続けた小さな書店が今年閉店した。 大型のナショナルチェーンでも閉店が相次ぐ昨今。町の本屋の閉店なんて珍しくもないことかもしれないけれどひとつひとつの店に歴史があり、そこでつながった縁があるわけで。この一冊を読みながら別の本屋の物語を思い浮かべる人も多いだろう。 なぜ本屋が閉店し続けるのか。本屋だけが減り続けているのだとしたら、それはなぜなのか。 表紙の絵はとても明るい。開店祝いのような笑顔がみえる。けれどそこには多くの悔しさも悲しみもあるはず。 でもこの本がある限り、小林書店の物語は語り継がれていくだろう。 働く、ということの意味、意義、そして姿勢。仕事をしていく上で大切なことは全てここにあるのだから。
新刊最速レビュー

言葉でしか伝えられないことがある。でも言葉では伝えられないものもある。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月28日

2024年10月28日

言葉でしか伝えられないことがある。でも言葉では伝えられないものもある。これは、どうやっったって言葉という形にはならないものをあえて言葉で伝えようともがく一人の女性の物語だ。 耳が聴こえない世界。音のない世界。そのなかで生きている人たち。彼らが使う手話という言葉。テレビであるいは街中で見かける手話での会話。音のない会話であるはずなのに、それがとても賑やかだと感じたことはないだろうか。彼らはその手の動きだけではなく、表情や身体全部から言葉を発している。そこにあるのは「伝えたい」という気持ちそのもの。手話自体は割と身近なものかもしれない。けれどその「手話」が世界共通ではない、もっと言えば日本国内でも共通の言語ではないことは意外と知られていない。地域によって、年代によって微妙に違いがある。そして耳の聴こえない人が通う学校で必ずしもその手話を習うわけではなかったということもあまり知られてはいない。その理由をこの小説で知って、日本という国での「障害者」に対する姿勢を目の当たりにして、自分のその認識の浅さに震える思いがした。健常者と障害者。それはくっきりと分かれている世界なのか。 視覚障害は人と物の間を隔てる障害で、聴覚障害は人と人を隔てる障害だという。生まれたときから聞こえない人と、途中で聞こえなくなった人、そして聞こえる人。その間にある溝を越えることはできるのだろうか。そもそもその溝とはいったいなんなんだろうか。 コーダ(チルドレンオブデフアダルト)の父を持つ作家五森つばめが、日本ではじめてのろう理容師の1人である祖父のことを小説に書こうと奮闘する姿。それは自分自身を、自分の存在自体をバラバラに解体し、そして一から組み立てる作業でもあった。 耳の聴こえない祖父母を持つ私。もし歯車が1つずれていたら存在しなかったかもしれない私。それを小説に描こうとする私。自分の心の奥深くまでもぐりこんで自分を見つめる作業は、とてつもなく苦しい。見たくないものを見る、知りたくないことを知る。そういう作業の上に、「私たちのことを知って欲しい、誰かに伝えて欲しい」という人たちの声を積み重ねていく。 つばめの祖父について語る人たちの物語の中に心を打たれるエピソードがたくさんある。そのひとつひとつを丁寧に受け取って欲しい。現実から目をそらさずに。 今を生きる私たちは、言葉にできない思いの、その向こう側から未来を照らす光を背に、歩いていかなければいけないのだから。
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最後に見える風景の、切なさと優しさと温かさ

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月22日

2024年10月22日

探偵遠刈田が招かれた富豪の米寿の祝い。会場は個人所有の孤島。嵐の日、そこで起こった富豪失踪事件…って完全にクローズドサークルミステリじゃないですか! どう転がっていくんだ?次々一族が死んでいくのか?犯人当てか?はたまた「一万年愛す」なんて不思議な名前の時価35億の宝石をめぐる骨肉の戦いか? と勝手に思い込みながら読んでいくと物語は思わぬ方向へと進んでいく。 45年前の主婦失踪事件との関係は? 最後に見える風景の、切なさと優しさと温かさこそが吉田修一小説のキモ。そして新たに加わる○○風味。 過去から続く愛の罪。
新刊最速レビュー

少しずつ明らかになる真相。そこからの展開は全く予想しなかった地平へと続く

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月19日

2024年10月19日

緊急搬送されてきた溺死者は自分と瓜二つだった。兄弟がいないはずの医者武田が受けた衝撃。 身元不明遺体はいったい誰なのか。なぜ死んだのか。そして自分との関係は。 ここまでで十分に不気味で謎めいた設定であるのに、実際にはそれはほんの序章にすぎないというね。 「キュウキュウ十二」と呼ばれる遺体の身元を調べ始める武田と旧友城崎。少しずつ明らかになる真相。 けれど、そこからの展開は全く予想しなかった地平へと続く。いや、もう、びっくりしてのけぞりながらのめりこみましたよ。 読者が受けるこの衝撃の瞬間をこっそりとのぞき見していたい。 まさに「禁忌の子」。現役ドクター作家さんが増えている今日この頃ですが、その中でも山口美桜さんには大注目。 これはかなりの話題作となるはず。
新刊最速レビュー

それぞれに一途な思いが綾なす物語に震えるような思いでページをめくり続ける

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月19日

2024年10月19日

親を亡くし後ろ盾もない一人の少女がしなやかに強かに、自分の信念に従い自分の力で生きる道を切り開いていく。 「戦争」という理不尽の塊の中で、真珠細工師になるという夢を叶えるため猪のように突き進む冬美。 冬美、早川薫、火崎剣介。三人のそれぞれに一途な思いが綾なす物語に震えるような思いでページをめくり続ける。 女は男の補助的仕事をしていればいい、表に立つことなく男を立てることこそ美徳、という時代に男だけの仕事に風穴を開け閃きと根気で誰もを納得させ説き伏せていく美冬に心から拍手を送りたくなる。けれど、女が家庭と仕事を両立していく困難を、どうしても思わずにいられない。それは令和の今も変わらず横たわる問題だ。 戦時中にも営業を止めなかった帝国真珠の、漂泊と染色の技術。捨ててしまっていた傷や汚れの付いた真珠に新しい命を吹き込む。それを思いつき試行錯誤しながら会社の新たな事業にまで展開していった少女たちの潜在的力にほれぼれする。 戦争が、偏狭なしきたりが、凝り固まった思考が奪っていった多くの宝もの。 そこに可能性という光を掲げ続けた冬美のこれからの物語も読んでみたい。

伏線が幾重にも織り込まれた苦くも美しき復讐劇。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月19日

2024年10月19日

SF的特殊設定+多重解決しかも本格ミステリ 両親を殺された少女と、ビルから突き落とされて幽霊となった青年。二人がタッグを組んで目指すのは「真犯人への完全犯罪」。 無力+無力の最弱バディが練りに練った完全犯罪。 何度も繰り返される「真実」。本当の犯人は、誰。あの日、何が起こったのか。 伏線が幾重にも織り込まれた美しき復讐劇。 読後、このボリュームに愛おしささえ感じるだろう。真犯人に目星がついてさえも、最後の最後まで謎解きを楽しめる一冊。

トラウマジュブナイルミステリ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月15日

2024年10月15日

トラウマジュブナイルミステリ。 児童文学として三十年以上読み継がれてきた衝撃の一冊。 保険会社のテレビCMに出てくる家族、といえば絵にかいたような幸せ家族だろう。みんなが笑顔で幸せそうで、見ている側もほのぼのするような。 そんなモデルに選ばれた一つの家族の、崩壊ドキュメント。 プロローグで明かされる語り手の思い。5人家族の中でひとりだけ生き残った「ぼく」が、その「事件」のひとつひとつを語る。 衝撃、戦慄、嫌悪。幸せな家族に起こっていた本当のこと。 犯人については最初から目星は付く。なのにどうしようもなく最後まで読んでしまう。 「その頃はやった唄」に沿って次々と家族が死んでいく、その理由が知りたくて。 「幸せな家族」の幸せとは。いや、これ本当に児童書なんですか??
新刊最速レビュー

海になぜ人は惹かれるのだろうか。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月13日

2024年10月13日

海の見える街。そこに住む他人同士。どこかですれ違い、どこかで関わりを持ち、けれど通り過ぎてしまうほどの関係の他人同士。 そんな人たちの人生の、ひとかけらを描き出す。 海の見える街。そこに住む他人同士。どこかですれ違い、どこかで関わりを持ち、けれど通り過ぎてしまうほどの関係の他人同士。 そんな人たちの人生の、ひとかけらを描き出す。 海になぜ人は惹かれるのだろうか。 寄せては返す波をぼんやりと見つめる時間を、人類のDNAが求めるのだろうか。 うまく行かない毎日の中でふと惹かれる波の音と海の色。 寂しい時、泣きたいとき、人は海を求める。世界中の涙が集まって海になったからか。そこからやってきた涙をまた返すために海に行きたくなるのか。 カツセマタヒコの小説の透明な優しさに包まれる。 ただ一か所。氷塊、溶けて流れる。のラストだけは受け入れにくかった。 父親への憎しみを、自分の子どもと同じ年の妹を持つ父親へのわだかまりを、こんな風に溶かして流せるのだろうか、と。 捨てられた母が新しい人生を歩いているとして、夫と息子が勝手に和解していたら、ちょっとイヤだろうな、と思ったりなんかして。 。 寄せては返す波をぼんやりと見つめる時間を、人類のDNAが求めるのだろうか。 うまく行かない毎日の中でふと惹かれる波の音と海の色。 寂しい時、泣きたいとき、人は海を求める。世界中の涙が集まって海になったからか。そこからやってきた涙をまた返すために海に行きたくなるのか。 カツセマタヒコの小説の透明な優しさに包まれる。 ただ一か所。氷塊、溶けて流れる。のラストだけは受け入れにくかった。 父親への憎しみを、自分の子どもと同じ年の妹を持つ父親へのわだかまりを、こんな風に溶かして流せるのだろうか、と。 捨てられた母が新しい人生を歩いているとして、夫と息子が勝手に和解していたら、ちょっとイヤだろうな、と思ったりなんかして。
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神から最も遠いところで生きているような人々の、それでも神を近くに感じている物語

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月13日

2024年10月13日

神から最も遠いところで生きているような人々の、それでも神を近くに感じている物語。 世界はメジャーでまわっている。マイナーに属する人々は神の視線からは外れているのかもしれない。いや、全知全能の神なら外れている人々などいないのかもしれないが。 それでもどこかの片隅でちいさな人生を送っている人々の、その日々たち。 何かを生すため、とか、何かを変えるため、とか、そういつ大それた人生でなくても、それでも昨日から今日に、そして明日に続く毎日を生きている。 そんな一編を切り取った6章。 最終章「ちょっとした奇跡」がとてもとても好きだ。 奇跡の一瞬の鮮やかさと尊さ。希望の光のカケラ。
新刊最速レビュー

生きることの厳しさを、誰かと生きることの優しさを、どちらもきちんと見せてくれる、そんな小川糸の誠実さを私は信頼している

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月13日

2024年10月13日

『食堂かたつむり』『ライオンのおやつ』そして『小鳥とリムジン』 どうしようもなく生きている。生きていくために食べる。 命のみなもとが生きたいと泣いている。小川糸の小説を読むと心の深いところが温かくなる。 悲しくてつらくて寂しくてどうしようもないときに、そっと背中を撫でてくれる手が欲しくなる。 その手の温かさを小川糸は物語で紡いでくれる。でもその温かさは甘さだけではなく、苦さもからさもみんな含んだ温かさなのだ。 生きることの厳しさを、誰かと生きることの優しさを、どちらもきちんと見せてくれる、そんな小川糸の誠実さを私は信頼している。 小鳥の苦しみを救った二人の男性に、心から感謝したくなる。 人のために何かをすること。人に何かをしてもらうこと。その当たり前のやりとりを人生で初めて知った小鳥の、新たな生まれ変わりの物語。 ただ、物語では描かれなかったあれやこれがとても気になるので何とかして欲しいです(笑
新刊最速レビュー

苦しいのに何度も読み返したくなる。青春ミステリの新たなる名作。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年10月04日

2024年10月04日

本当の私。本当のあなた。本当の気持ち。本当の嘘… 主人公が生きた「青春」と、味わった「絶望」を、二度と繰り返さないために他人と深く関わらずに生きてきた時間。 一本の電話でその封印していた過去を確かめに戻っていくこと。 近未来に導入されたとある制度。その関係を表す言葉の、二重の意味。 読みながら彼の、そして彼女の思いに胸を刺される。 本当のことなんて、誰にも分らない。同じように、本当の嘘も誰にも分らない。 分からないから生きていけるのかもしれない。 彼らの、もしかするとあったかもしれない未来を思い本を閉じる。 自分ならどんな道を選んでいただろうか。 苦しいのに何度も読み返したくなる。青春ミステリの新たなる名作。

表紙の美しさも含めて、これはずっと読み続けていきたい。ぜひともシリーズ化を!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月29日

2024年09月29日

父親の跡を継いで本所で岡っ引きとなった佐吉と、着道楽な町医者秋高。二人が解く町の事件たち。 時代小説であり捕物帖であり本格ミステリでもある連作短編集。 いやはや、まいったまいった。めちゃくちゃ面白いではないか。 新米岡っ引きが秋高の「医者としての目」からの助言をもとに事件の隠された真実に迫っていく。 事件の裏にある悲喜こもごも。ニヤリとしたり切なくなったり。 表紙の美しさも含めて、これはずっと読み続けていきたい。ぜひともシリーズ化を!

山岳純文小説。ラストがサイコー!

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月27日

2024年09月27日

山岳小説ってなんでこんなに面白いんだろうね。 「バリ」ってなに?「バリ山行」って何て読む。から始まった芥川賞受賞作読書。 会社でのあれこれはきっと頷きながら読む人多そう。そしてそこからの登山からのバリエーション登山。そうかバリってバリエーションのことか。 正規のルートから外れ、道なき道を行く、って山では危険すぎるでしょ! でもそういう山登りの仕方があるんだな、寡聞にして未知。 妻鹿さん、いいよね。なんか不思議な魅力をもってるよね。そしてラストよ、ラスト!!これサイコーのラストじゃない?

50歳の幼馴染同士が共に過ごす時間の尊さよ。

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

2024年09月27日

2024年09月27日

何も起こらない普通の日々。それぞれのすべてを見てきた友だちがそばにいる日々。そんな毎日の尊さをしみじみと思い知る。 幼馴染みが同じ団地にいること。50歳になってもだらだらぐずぐずと部屋で過ごせる友達でいること。けんかしてもいつのまにか元通りになれる仲でいること。 その奇跡のような関係は50年という時間につながっているんだろう。 もしかすると何度も切れてしまいそうなこともあったかもしれない。それでもどちらかが手を伸ばしてどちらかがその手をつかんでそしてだらだらぐずぐず過ごせる時間の中へと戻ってきたのだろう。 いいなぁ、と心の底から思う。そんな友だちがいることも、そんな友だちと一緒に過ごせる部屋があることも。 でも、この先どうなるんだろう。団地が建て替えられることになったら… 同じ団地にいるからこそのこの関係。別々のマンションなんかに引っ越してしまったら終わっちゃうのだろうか。 いや、でもまだしばらくは大丈夫。建て替えはまだ先のはず。それに二人には大切な使命があるのだし。 団地のおばちゃんたちが困っているときに助けてあげる、という大切な使命があるのだから。
新刊最速レビュー

自分以外の誰かと過ごす時間の尊さ

しまゆ

書店員

2024年09月25日

2024年09月25日

人間が苦手で動物が好きだという人は、結構多いように感じる。 でも、美苑のように明確に動物となら意思の疎通(会話)ができることが理由の人はそうそういないのではなかろうか。 いたとしても多くはないだろう。 動物とならきちんと会話ができて言いたいことも言えるのに、人間との会話はどうにもうまくいかない。 家族であっても何を考えているのかさっぱりわからない。そんな時は会話が足りていないのだろうとも思う。とはいえ、会話をしたところでうまく思いを言葉にできなければ伝わるものも伝わらない。 動物たちはどう思うだろう。 大切に思う人間が、自分とは言いたいことも言い合えるのに、他の人間とだとうまく喋ることができず関係を築くことができないとしたら。 負担だと思うより、心配になるのではないだろうか。 私はこの小説を読みながら、「自立するためには依存先を増やすことが重要」ということを思い出した。 ひとつの何かや1人の誰かに依存するのではなく、1人の自分として生きるためにはたくさんの人を頼る必要がある。 動物たちはそもそも依存という関係には陥らないのかもしれないけれど、人間は簡単に依存に陥ってしまう。 相手を大切に思うからこそ、そして相手からも大切にされたいのならば、1人だけに依存すべきではないと思いつつ、地力で交友関係を広げるのは難しい。 依存する相手の言葉を素直に聞き入れるのが難しいことだってある。突き放されたような感覚になり、つい反論してしまう。 そんな状況は、誰にも覚えがあるのではないか。 私は若い頃にそんなことがありすぎて頭を抱えるほどだ。 そして、誰か1人に依存してしまうと、自分自身とは何かということを見失いがちだ。 「この人のために」が先に立ち、自身の意見も何もかなぐり捨てて生きてしまうから。相手がそんなことを望んでいなくても、自分を捨ててしまうのだ。 自分がより自分らしく生きるためにも、依存先は多い方がいい。 たくさんの人の力を借りて、たくさんの人に影響を受けて、そうして「自分」が作り上げられていくのだ。 自分のことがよくわからない人ほど、たくさんの人と会話をすべきだと思う。自分の本音はなかなか自分では聞き取れなかったりするけれど、たくさんの人と関わりを持つことで、自分の本音が聞こえてくるようになるのだから。
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